OLYMPUS STYLUS 1
旅人にとっては、峠も、神であった。トウゲということばは、タムケ(手向け)からきている。
(司馬遼太郎著「街道をゆく オホーツク街道」より)
船乗りにとっての岬もそうだったらしい。単に地形の特徴を表す「サキ」に尊称語のミ(御)がついているのはそのためだという。古来、峠も岬も旅の難所であり、時にあの世とこの世を分ける場所でもあるからだろうか。
峠と岬、今でもなんとなく旅人の心を高ぶらせる場所である。
昔、知床に初めて来たときは鉄道旅だったのだが、ウトロで50ccのレンタルバイクを借りて(まだクルマの免許を持っていなかった)、この峠まで上がってきた。青空の下にある羅臼岳の美しさに惹かれてのことだった。
2003年に来たときはクルマで羅臼からこの峠を越えてウトロに行った。しかし、知床横断道路はほぼ全線、霧と雲の中であった。
今回は内陸からウトロに行ったので、この峠(知床横断道路)を通る必要はなかったのだが、昔を懐かしみつつ上がってみたところ、峠はまたもや雲の中にあった。
翌朝はいい天気だったので、再び上がったところ今度は羅臼岳がきれいに見えた。このまま横断道路を抜けて羅臼に出ようか、ちょっと迷ったが、その後の旅程を考えて引き返した。
どうしようか考えている最中に、ちょうど峠のバス停に路線バスがやってきた。北海道を列車とバスで旅したあの頃がちょっと懐かしい。
越えるのではなく、ただ上に立つことだけが目的で訪れた峠といえば、ここの他には美幌峠と
徳本峠しかない。