Leica M2 Elmar 50mm F2.8
「世の中にはほしいものがいっぱいあるのに買えないなあ。」
漫画「ドラえもん」の、ある話の中でのび太がつぶやく言葉です。この話を読んだのはもう随分前ですが、私の心の中に実感として残り、ときおり思わず口にします。
人にはそれぞれほしいものがあって、きっと誰もが同じ思いを持っていることと思いますが、私の場合、この思いを強くすることが多いのはカメラ屋の店頭です。ただし最新のデジタルカメラなどではなく、もう何年も前に作られた、中古カメラ、クラシックカメラと言われるものを見ている時なのです。それはつまり私の趣味が写真、正確に言えばカメラを持って旅をすることだからです。
写真が好きになったきっかけは、10年以上前、初めての海外旅行でカナダへ行ったことでした。山を眺めたり歩いたりする事が好きだったので、最初の海外旅行もカナディアンロッキーにしたのですが、その風景をなんとかプロのように美しく撮れないか、と思ったところからこの趣味が始まりました。それまでも写真に多少の興味はありましたが、この旅で、故障に備える意味もあってカメラを複数持つようになり、それから深みにはまりました。以来、毎年海外へ出かけるようになり、それにつれ、カメラの数も徐々に増えてしまいました。
今、カメラと言うと世の中の主流はデジタルカメラに移ろうとしており、フィルムを使うカメラはいずれ絶滅する、と言う人もあります。しかし今でもレコードプレーヤーが残っているように、恐らく一部の限られた機種は残るだろうと思います。ただ、19世紀に発明されて以来のカメラの歴史において、「デジカメ」の登場はまさに革命的な出来事です。
改めて振り返ってみると、人類の歴史は記憶媒体の発明の歴史だったとも言えます。最近でもMDやDVD などが登場したように、人はいつも新しいものを求めています。しかしデジタル写真に関して言えば、簡単に写せてメールでやりとりできるなどの便利さの反面、一瞬にしてデータが失われる脆弱性があるとも言えます。また、何らかのメディアに保存するに際しても画質とデータ容量の問題がありますし、フィルムと違い、パソコンがないと見ることができないことにも不安を感じます。私は今、古いアルバムをめくって、そこに自分が生まれる前の家族の姿を容易に見ることができますが、次々と情報技術が更新されているこの状況では、数十年後に、今のデジタル写真を、アルバムを繰るように簡単に読み出せるとは限らないでしょう。
従って、私も撮った写真をデジタルデータとして扱うことはありますが、基本的にはフィルムで残していきたいと考えています。また、フィルを使うカメラは今後減る一方で増えることはありませんから、気に入ったものをできるだけ手に入れて大切に使ってみたいとも思っています。
・・でもなかなか思うようには「買えないなあ。」
以上は、もう10年ほど前のことになるが、職場で発行する社内誌のようなもののページに空きが生じたので、その隙間を埋めるため何か書いてくれ、と頼まれて書いた「銀塩派宣言」というタイトルの文章。パソコンのHDDの中で眠っているのを見つけたので掲載。
この頃はまだそれほどに欲しいと思えるデジタルカメラがなくて、自分にとって初めてのデジタルカメラであるリコーのGXを、買った直後か、買う直前に書いたものではないかと思う。以前の記事でライカM2をそのままデジタルで使いたいと書いたことを思えば、この頃から自分の心もずいぶんとデジタルに移ったものである。
とはいえ、今後もフィルムが存在する限りは、銀塩カメラを使い続けようとは、もちろん今も思っているのである。