MINOLTA a-9
広田は賞勲局に命じ、この「文化」のため勲章制定に意欲的に動いた。当然、勲章を占有視している軍部の妨害が予想されたが、広田は、何が何でも実現しようと思った。
このため、ぐずといわれている広田だが、いちはやく参内して天皇に御説明し、御内意を得た上で閣議にかけるという強行手段に訴えた。
天皇はよろこんで賛成された。
「政治上のことでないから、自分の意見を述べてもよいだろう」
といわれ、リボンの結びの桜について、
「桜は軍人がいろいろ用いているから、右近の橘、左近の桜だから、橘にしたらよかろう」
とのアイデアを出された。
広田は、そのお言葉を心の中で何度もくり返した。
天皇はまた、「文化は永遠であり、散りぎわの美しさを示す桜で代表させるべきではない」
という意味のこともいわれた。
こうして、白く簡素な橘の花が、文化勲章に用いられることになった。
(城山三郎著「落日燃ゆ」より)
4年前のエントリから再掲載。
「文化は永遠であり、散りぎわの美しさを示す桜で代表させるべきではない」というお言葉がちょっと印象的であった。